2016年9月18日日曜日

山田太一ドラマと笠智衆さん晩年の名演

ネタバレご容赦で、ふたつの作品について語る。

「ながらえば」

1982年作品。

笠智衆演じる主人公は、息子の転勤にともなって、名古屋から富山に移り住むことになる。妻は名古屋で入院中で残っている。富山に引っ越した翌日、彼は名古屋に行きたいと言い出す。息子夫婦は昨日の今日にと説得するが、彼はわずかな金しか持たず、息子宅を飛び出す。無銭宿泊した宿屋の宇野重吉演じる亭主の好意で、旅費には十分な金員を貸し与えられ、名古屋に向かう。宿屋の亭主は、その日奥さんを亡くし、彼の妻に逢いたいと気持ちを痛いほどわかってしまうのだ。彼が必死で名古屋に向かったころ、妻は危篤の状態にあり、すんでのところで回復していた。男は妻に、お前のそばに居たいと繰り返すが、自分と妻、息子たちの状況を飲み込み富山に帰る。

「冬構え」

1985年作品。

笠智衆演じる80歳近くの主人公は、6年前に妻を亡くし、ひとり身。自殺念慮を抱え、東北の旅に出て、とある旅館で若いカップルに、資金援助の振りでなけなしの金を与える。しかし、そうしても自殺にも失敗し、死ぬことはできない。金を与えた青年と訪れた寒村で、青年が自殺を思い留まるように説得を頼んだ老人から、諭され誘いに乗ってここで生きなおそうと思いなおす。


どちらの作品も、老いの岸辺を描いた作品だが、山田太一氏のモチーフは「岸辺のアルバム」以来、家族、個人のゆらぎだ。

高齢者に限らず、われわれは常に孤独の淵にある。
文明の利便で、ひとりの方がお気楽極楽、利害得失でこちらを選ぶというのは、現代社会のトレンドではあるが、これらドラマで描かれているとおり、最期の最後は緩くはない。
笠さんのぶっきらぼうにみえて、味わい深い表現が、その足元を照らしてくれる。

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