2017年1月31日火曜日

ながらえば

「ながらえば」は、笠智衆さんの晩年期の作品である。
山田太一さんの原作で、笠さんの演技も従来の朴訥から転じて、抑えながらも自己主張的だ。

妻を名古屋の病院に置いて、息子夫婦と富山に行った智衆さん。
妻危篤の虫の知らせで名古屋に戻ろうとするが、息子夫婦は許さない。
出奔するが如く、ささやかな金員を持って、名古屋を目指すが、資金ショートで途中下車となる。
無銭飲食風に泊まった宿で、おかみの通夜に出会う。
妻を失った宿の主人のシンパシーで、旅費を借りて名古屋に向かう。

年取れば、それまでの様々を失い、剥ぎ取られながら、最期を目指す。
自分には、笠さん演じた夫のように、年老いて求愛する妻はいないが、笠さんや宿の主人の気持ちはよく分かる。

今日、外回りから帰る朝、前に少し歩いては立ち止まる人影を見る。
追い越そうとすると、近所の御夫人だ。
仲のいいご夫婦で、旦那は一回り二回り下のガッテン系である。
働き者で、今日も医大の飯場に出ているという。
ファンシーな置物に、ご夫婦のファンタジーを感じるが、やはり歳の差、厳しさは足に来ている。

この厳しい時代、われわれは各自「ながらえば」の厳しさを持って生きねばならない。
大時代的な激変が進みつつある現在、やはり身辺に見えるは、こうしたながらえばの世界だ。
自分もどこまで行けるかは無明そのものだが、いくほかなし。

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